機械加工の公差表とは【普通公差・はめあい・IT等級を図解】

「公差」は、図面で指定した寸法に対して許される寸法のばらつき(最大許容寸法と最小許容寸法の差)のことです。加工現場では、この公差を守れるかどうかが品質・検査・コストのすべてを左右します。厳しすぎれば加工費が跳ね上がり、緩すぎれば組み立たない——ちょうどよい公差を選ぶことが設計と加工の要です。この記事では、公差の用語・普通公差(JIS B 0405)・はめあい・IT等級・加工方法別の精度・図面での読み方までを、計算例とともにまとめます。
公差の基礎用語
- 基準寸法(呼び寸法):図面に記載された基準となる寸法。
- 上の許容差 / 下の許容差:基準寸法からのプラス側・マイナス側の許容量。
- 最大許容寸法 / 最小許容寸法:基準寸法にそれぞれの許容差を加えた上限・下限。
- 公差:最大許容寸法 −最小許容寸法 = 上の許容差 −(下の許容差)= 許容されるばらつきの幅。
- 例:
φ20 +0.02 / −0.01→ 最大 20.02、最小 19.99、公差 0.03。
公差は必ず「幅(正の値)」で、方向を持ちません。方向を持つのは許容差のほうです。
なぜ公差が必要か(精度とコストの関係)
すべての寸法をぴったり作ることは物理的に不可能で、必ずばらつきが出ます。そこで「どこまでのばらつきなら機能上OKか」を決めるのが公差です。
一般に、公差を半分にすると加工費は大きく増える傾向があります(工程追加・検査強化・不良率上昇のため)。だからこそ、機能に効く寸法だけを厳しく、それ以外は普通公差でまとめるのが実務の基本です。「念のため全部きつく」は最もコストを無駄にするパターンです。
普通公差(JIS B 0405-1991)
個々に公差を指示しない寸法へ一括で適用される許容差です。図面には表題欄や注記に 「JIS B 0405-m」 のように等級(f/m/c/v)を記載します。等級は f=精級、m=中級、c=粗級、v=極粗級で、中級(m)が最も一般的です。
面取り部分を除く長さ寸法の許容差(単位 mm、±)
| 基準寸法の区分 | f 精級 | m 中級 | c 粗級 | v 極粗級 |
|---|---|---|---|---|
| 0.5 以上 3 以下 | 0.05 | 0.1 | 0.2 | − |
| 3 を超え 6 以下 | 0.05 | 0.1 | 0.3 | 0.5 |
| 6 を超え 30 以下 | 0.1 | 0.2 | 0.5 | 1.0 |
| 30 を超え 120 以下 | 0.15 | 0.3 | 0.8 | 1.5 |
| 120 を超え 400 以下 | 0.2 | 0.5 | 1.2 | 2.5 |
| 400 を超え 1000 以下 | 0.3 | 0.8 | 2.0 | 4.0 |
| 1000 を超え 2000 以下 | 0.5 | 1.2 | 3.0 | 6.0 |
| 2000 を超え 4000 以下 | − | 2.0 | 4.0 | 8.0 |
※ 0.5mm 未満の基準寸法には、その寸法に続けて許容差を個別に指示します。
面取り部分(かどの丸み・面取り寸法)の許容差(単位 mm、±)
| 基準寸法の区分 | f・m(精・中級) | c・v(粗・極粗級) |
|---|---|---|
| 0.5 以上 3 以下 | 0.2 | 0.4 |
| 3 を超え 6 以下 | 0.5 | 1 |
| 6 を超えるもの | 1 | 2 |
角度寸法の許容差(角度の短い方の辺の長さで区分)
| 辺の長さの区分 | f・m | c 粗級 | v 極粗級 |
|---|---|---|---|
| 10 以下 | ±1° | ±1°30′ | ±3° |
| 10 を超え 50 以下 | ±30′ | ±1° | ±2° |
| 50 を超え 120 以下 | ±20′ | ±30′ | ±1° |
| 120 を超え 400 以下 | ±10′ | ±15′ | ±30′ |
| 400 を超えるもの | ±5′ | ±10′ | ±20′ |
はめあい(穴と軸の組み合わせ)
穴と軸の寸法差で「すきま」か「しめしろ」かが決まります。
| 種類 | 状態 | 用途 |
|---|---|---|
| すきまばめ | 必ずすきまがある | 滑らかに回る・動く軸 |
| 中間ばめ | すきま or しめしろ | 位置決め・軽圧入 |
| しまりばめ | 必ずしめしろ | 固定・圧入・回り止め |
- 穴基準(H):穴を H で固定し、軸側の記号で調整する方式。ドリル・リーマで穴径が決まりやすい実務ではこちらが一般的。
- 軸基準(h):軸を h で固定し、穴側で調整する方式。市販の軸(研磨丸棒等)を使うときに便利。
常用はめあい早見表(穴基準 H7)
| 組み合わせ | 種類 | 目安・用途 |
|---|---|---|
| H7 / g6 | すきまばめ | 軽く滑る。すべり軸受、位置決めピン |
| H7 / h6 | すきまばめ(最小すきま 0) | 手で抜き差し、案内 |
| H7 / js6 | 中間ばめ | ガタなく手で組める |
| H7 / k6 | 中間ばめ | 軽圧入、キー併用の位置決め |
| H7 / m6 | 中間ばめ | やや強めの圧入 |
| H7 / p6 | しまりばめ | 圧入固定、抜けない結合 |
※ 正確な許容差(μm)は寸法区分ごとに JIS B 0401 で規定されます。設計時は必ず数値表で確認してください。
IT基本公差等級(IT等級)
IT01〜IT18 まであり、数字が小さいほど高精度(公差が小さい)。同じ IT 等級でも基準寸法が大きいほど許容差は広くなります。はめあい記号の数字(H7、g6 など)はこの IT 等級を表します。
加工方法別に狙える精度の目安
| 加工方法 | 狙える IT 等級(目安) | 表面粗さ Ra(目安, μm) |
|---|---|---|
| 旋盤・フライス(一般) | IT9〜IT11 | 1.6〜6.3 |
| 精密旋盤・マシニング | IT7〜IT9 | 0.8〜3.2 |
| リーマ仕上げ | IT7〜IT8 | 0.8〜1.6 |
| 研削(円筒・平面) | IT5〜IT7 | 0.2〜0.8 |
| ラップ・超仕上げ | IT3〜IT5 | 0.05〜0.2 |
※ 機械・工具・材料・条件で変わる目安です。研削前提の公差を旋盤で狙わない、といった工程整合の判断に使います。
図面での公差の読み方
- ±表記:
50±0.1→ 49.9〜50.1。 - 上下別表記:
φ20 +0.02 / 0→ 20.00〜20.02。 - はめあい記号:
φ20 H7→ 穴の公差域クラス H7。φ20 H7/g6は組み合わせ指定。 - 公差の指定がない寸法:表題欄の普通公差(JIS B 0405 の等級)が適用される。
- 幾何公差(真直度・平面度・直角度など)は別記号で、指定がなければ JIS B 0419 の普通幾何公差が適用される。
計算してみよう(実例)
例1:普通公差(中級 m) 基準寸法 45mm、等級 m → 区分「30〜120」で ±0.3。許容範囲は 44.7〜45.3mm。
例2:面取り C2 の面取り、等級 m → 「3〜6」の面取り許容差 ±0.5 → 1.5〜2.5mm ならOK。
例3:はめあいのすきま φ20 H7/g6 を使う場合、穴 H7=20.000〜20.021、軸 g6=19.993〜19.980(JIS B 0401 数値)。最小すきま 0.007、最大すきま 0.041mm → 潤滑して滑らかに回る設計。
よくある間違い
- 普通公差の存在を忘れ「公差なし=自由」と誤解する。
- 穴基準(H)と軸基準(h)を取り違える。
- IT 等級と加工方法が合っていない(研削前提の公差を旋盤で狙う)。
- 面取りや角度にも普通公差が効くことを見落とす。
- 機能に不要な箇所まで厳しくしてコストを上げる。
よくある質問(FAQ)
Q. 公差が書いていない寸法はどうする? A. 表題欄で指定された普通公差(JIS B 0405 の等級)が適用されます。等級記載がなければ発注元に確認しましょう。
Q. H7 と g6 の意味は? A. アルファベットが公差域の位置、数字が IT 等級(公差の大きさ)です。大文字は穴、小文字は軸を表します。
Q. 普通公差の等級はどれを選べばよい? A. 一般的な機械部品は中級(m)。外観・非機能部は粗級(c)でコストを抑え、精密部品のみ精級(f)とするのが定石です。
Q. 公差はきつくするほど良い? A. いいえ。厳しくするほど加工費・検査費が増えます。機能に必要な範囲で指定するのが基本です。
Q. ±0.1 と +0.2/0 は同じ? A. 公差幅は 0.2 で同じですが、狙う中心が違います。前者は基準寸法どまん中、後者はプラス側に寄せた設計です。
Q. 一般公差と幾何公差は別物? A. 別です。寸法の普通公差は JIS B 0405、形状・姿勢の普通幾何公差は JIS B 0419 で規定されます。
まとめ
公差は「どこまでのばらつきを許すか」の約束事です。普通公差(JIS B 0405)で全体を押さえ、機能上重要な箇所だけを個別公差やはめあいで指定し、加工方法に見合った等級を選ぶ——これがコストと品質を両立させる基本です。数値は必ず最新の JIS 規格で確認してください。
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